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仕事
この記事を書いた人:山本風音
仕事
ロヴァニエミでの2ヶ月間は、Rovaniemen Kehitys という現地の企業に入り、インターンシップとして働いていた。Kehitys とは英語で Development という意味で、半官半民の観光協会のような組織らしく、地域の自然をフィールドにした観光開発のプロジェクト ”Rural Arctic Experiences” に関わるということを事前に聞かされていた。ロヴァニエミはフィンランドでは有名な観光地で、オーロラやサンタクロースを目当てに日本人を含めた多くの観光客が訪れるため、日本の観光の事例や動向を調べ、現地での仕事を踏まえてレポートを提出するということだった。
ロヴァニエミに着いた翌々日に電話でアポを取り、会社に向かった。詳しい内容はあまり知らなずに緊張しながら部屋に入ると、担当のレーナとアンネから聞かされたのは、仕事の指示ではなく「とりあえず森のトレイルを歩いてみたら?」という提案のようなものだった。事前のメールでのやりとりはスムーズとは言えず、夏頃だと言われていたインターンの時期は休暇の関係で既に2ヶ月も押していたし、初めてのことばかりで何の経験も無かった僕は、「行けばなんとかなるだろう」とだけ思っていた。はてさて、困った。
日本人の感覚、しかも少し前まで大学生でいた時の感覚で、仕事は与えられるものだと思っていた僕は、いきなり面食らってしまった。 初めのうちはいろいろなところに連れて行ってくれたりもしたが、 指示を仰いでも返ってくる答えは「Up to you」で、基本的には何をするのも自分次第。ある程度の信頼と自由が保証されている反面、それには自立と責任が伴う。何事も自分で考えて行動しなければ始まらない。街に出掛け森を歩き周囲の様子を観察しながら、まずは仕事を見つけるところからインターンシップが始まった。
時間が経って少しずつ仕事にも慣れてくると、次第にスケジュールにも予定が増え、いろいろと動けるようになっていった。何もしなければ何も進まない反面、こちらからの希望や提案には親身になって協力してくれた。いろいろな知り合いに声を掛けてもらい、地域の4Hクラブが企画する子どもの自然プログラムを見学したり、森林や林業をテーマにしたサイエンスセンターに話を聞きに行ったり、近くのアウトドアスクールの野外トレーニングを見学したりするようになった。見知らぬ日本人が突然訪ねていっても、皆快く迎えてくれる。反対に、アンネの勧めで就業時間内にもかかわらず、地元のオーケストラのリハーサルを見に行ったりと自由に過ごしていた。
フィンランドの人たち一人ひとりがたくましく自立して暮らしているのは、会社の中だけではなく、子どもの頃からそのような環境に身を置いているからなのだろう。外から見れば一見ドライに感じてしまうその態度も、彼らと一緒に少しの間暮らしていればフラットでゆるやかな関係性が見えてくる。原野の中で孤高に暮らす動物たちのように、厳しい気候の中で地に根を下ろししっかりと生きていくための知恵なのかもしれない。見知らぬ土地での慣れない暮らしに一つひとつ戸惑ったりしながら、自分は何をしに来たのか、これから何をすべきなのか、ぼんやりと考えていた。
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写真:仕事であちこち連れて行ってもらっている時に遭遇したトナカイの群れ。人口6万人のロヴァニエミでは、人よりもトナカイの数の方が多いのだとか。ロヴァニエミは、街を上から見下ろせばトナカイの顔が浮かび上がるし、そういえば、初めに部屋を借りて住んでいたのはReindeer Street、「トナカイ通り」に面した大きな家だった。