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森の中での過ごし方

この記事を書いた人:山本風音

森の中での過ごし方

フィンランドの人たちの暮らしは、長く厳しい冬がすぐそこまで近づいているのにも関わらず、むしろそのリズムに合わせるように淡々と、たくましく穏やかに過ぎていく。少しも飾ることなくクールであり続けるこの土地に少し面食らい戸惑いながらも、そういった振る舞いや態度にフィンランドらしさを感じるようになった。普段の習慣から社会の仕組みまで、あらゆるものの中にここで暮らす人たちの個性や意志が見えてくる。

会社の人と一緒に森へ出掛けた。鋭く真っ直ぐに伸びた針葉樹の森のトレイルを歩き、まだ動物や人に見つかっていない数少ないベリーを探してつまみ、ラーヴと呼ばれる森の中の小さな小屋で休憩する。マッチで火を起こし太めのソーセージ「マッカラ」を食べ、強く濃いコーヒーを飲みながらぽつりぽつりと話をする。特別なことは何もなくとも、森の時間を一緒に過ごすことでお互いに少し打ち解けられる。

フィンランドでは、すべての人に等しく自然を楽しむことが出来る「自然享受権」が保障されている。休憩小屋には訪問者が火を起こして休めるように薪が備え付けられ、ソーセージを刺して焼くための木の枝まで誰かの手によって置かれている。立ち去るときは次の人のことを考え水をかけずに、火が充分に消えるのを待ってから出発するのがマナーだと教わった。その代わり急ぐことなくゆっくりと休む。

相手と過度に関わり合う人となりではなくとも、生態系の一部のように緩やかにつながる関係性がある。こんなふうに森の中でのんびりと過ごすのも、フィンランドの人たちが穏やかでたくましくあるのも、あるいは社会全体のシステムまでも、そのベースには自然のリズムに寄り添い地に足をつけた人々の暮らしがある。たとえそれが生きるための手段から、今は日常の余暇に変わっても、そうして長い間この土地と関わり続けてきた歴史は変わらない。それはとても豊かなことだと思う。

そんなことを考えていると、日本では考えられないような文化の違いや習慣にも特段に驚かなくなった。もちろん戸惑いは残るものの、「ああ、何となくわかるな」と、その背後にある理由や気持ちが伝わってくる。異なる文化の中に身を置きながら、相手を理解することを学んだ気がする。旅することでは得ることの出来ない経験をしている。

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写真:冬が近づく秋の森は色の濃い緑色をしている。それ以外にもこの場所では、冬の寒さも暗闇も、自然の美しさも過酷さも、人々のたくましさも素朴さも、すべてが色濃く映る。